第68回 またどこかで

 日比谷コテージが閉店する。その悪いニュースを店長の花田から聞かされたのは、忘れもしない12月8日の朝だった。コテージで働いたあと、一緒に八重洲ブックセンターで開催されるトークイベントに出演する日である。
 よりによって、どうしてそんなタイミングで私に言うのか。年末の恒例になった、書店員4人で今年の推し本を語る楽しい日に、2人揃って暗い顔で登壇するなんて最悪である。
 イベントは足が地に付かないまま始まってしまった。しかしお馴染みのメンバーによる本の紹介は回数を重ねるごとに上達していて、余計なことを考える隙もない。
 そして最後に同会場で行われるのは、これぞ本屋冥利に尽きる、推し本の直売会。書店員の〝推し語り〟を聞いたお客さんが、興奮の面持ちで列をなす。本屋がひとつなくなっても、本屋の心が死ぬわけではなし。売りたい本はなくならないし、むしろ増える一方だ。
 小雨が降るなか、すっかり軽くなった段ボールを台車に乗せて、コテージに帰る花田と新井。まだまだ本を売りたいね、などと妙にさっぱりした気持ちで笑っていた。
 ひとまず進路は分かれるけれど、またどこかで。私は春から、HMV&BOOKSの渋谷店で働く予定だ。

(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

(本紙「新文化」2022年3月3日号掲載)