第23回 恋の季節

このところ、本当に忙しい。書店の仕事が休みの日のスケジュールはびっしり。今日も今日とて、デートである。待ち合わせは新宿の喫茶店。これから担当作家さんとの愛しい時間だ。

 

児童書の出版レーベル「らいおんbooks」で編集者として仕事をするとき、私のなかの「彼氏脳」が発動する。これを自覚させてくれたのは、はじめて編集者として絵本づくりをご一緒させていただいた加藤休ミさんだ。うまく言葉に出来ないけれどなんだかものすごいパワーがあって、本人もすごく不思議でおもしろい。 height=絶対にこの人と絵本をつくろうと心に決めて依頼をした。クレヨンで食べ物の絵を描く作家として地位を固めつつあった彼女が「食べ物の絵本は描かない」「白いクレヨンをたくさん使いたい」といって描いてくれたのが、休ミさんがその頭文字をとって「BBK」と呼ぶ『ぼーるとぼくとくも』(風濤社)。真っ赤なぼーると白いくも、そして男の子が一緒に楽しむ究極のごっこ遊び。本当にのびやかで気持ちいい一冊になった。

しかし、その道のりは甘くなかった。とにかく、私は編集がはじめてだったし、休ミさんの考えや感じていることがなかなかつかめなかった。何しろ彼女の感覚は私の予想をはるかに超えていたため、通常モードでは受け止めきれないという危機感から、たぶん私のなかに別人格が出てきたんだと思う。

 

でも一度恋人としてスイッチを切り替えると、相手が望んでいることがわかりやすくなった。自分で言うのも何だけど、ものすごくいい彼氏だと思う。目を見て相手の作品の美点を口に出して褒めることも、全く恥ずかしくない。ただ、シャイな休ミさんにはこれが通用しなかった。

 

行き詰まった二人が手探りのなかはじめたのが、交換日記。休ミさんはすぐにジャポニカ学習帳を用意してくれた。「渡すときはなるべく会って手渡しする」が二人のルール。ラフに対する私の思いを書くと、それに対して休ミさんの返事が来る。それがすごく楽しい。ノートが一冊終わるころ、絵本ができた。

 

実は今、同時に三冊の本が進行している。出版を引き受けてくださった版元の編集者Cさんの見事な手腕で、一冊目の本は見事校了。元カノときちんと終わらせ、二冊目の今カノの元に向かう。充実の打ち合わせの後、帰宅すると彼女からのメール。

 

「理恵ちゃんの次カノも決まってるから、私は今のうちに今カノをどっぷり楽しみます!」

なんとまあ、愛おしい!! 別れたあと嫌われない元カレになれるよう、頑張らなくっちゃ!!

(本紙「新文化」2023年11月2日号掲載)

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