日本では経産省主導の書店振興プロジェクトが注目を集め、文科省主導で子どもの読書推進に関する政策が行われている。民間発でも多様な取組みがある。
ただ、それらは日本の現状に即した発想の施策・政策が多いうえ、長年にわたって続く取組みは、悪い意味でルーチン化している場合もある。ここで一度、凝り固まったやりかたから離れ、改めて読書・購買を促し、予算を獲得する方法について考えることも必要ではないか。本連載では、官民発のいずれかを問わず、さまざまな国の読書推進や書店振興、出版産業支援策について紹介していく。
最初は英国の例。英国・NLT(国立識字基金)は、2003年からプレミアリーグと提携し、サッカー好きの子どもたちに向けて35万冊以上の書籍を学校に寄贈。サッカーは好きだが読書に無関心な子、読解力が低い子を対象に、学校と連携して「読解力向上プログラム」を実施している。
このプログラムでは、選手やスポーツジャーナリストを招き、サッカー関連の教材・テキスト(雑誌や書籍など)を読み解き推論するワークショップを行う。他にもトーナメント形式をイメージした「ブックバトル」(ビブリオバトルのようなもの)や、物語を通じてサッカーを学ぶ女子向けの企画など多彩な内容だ。「一般的な読書指導による6カ月以上の進捗を、10週間で達成する」ことを目標に行われた、9~13歳向けのプログラムでは、80%以上が予想以上の進捗を達成した。
NLTとプレミアリーグの提携例から学べることは2点ある。ひとつめは、サッカー好きの子に、「興味関心」を入口にして本に触れる体験を用意し、読書へのハードルを下げることの重要性だ。
ここではスポーツと読書を、自由時間を奪い合うトレードオフの関係と捉えるのではなく、「本を通じてスポーツをよく知り、より楽しむことができる」関係と位置づける。日本の読書推進現場でも、フィクション以外の分野に興味を持ってもらうことは課題のひとつだが、スポーツとノンフィクション・データ・資料は距離が近い。
NLTのプログラムは、その地域のサッカーチームを入口に、地域の歴史や地理に関する知識を掘り下げる、チームの過去の勝率をもとに今後の予測を計算する、「誰が歴代最高選手か?」をめぐる討論・スピーチイベントを行うなど、教科横断的なものになっている。
もう一つ学ぶべき点は、元気な産業と出版業界が、WIN―WINなかたちになるスキーム作りの重要性だ。
スポーツ産業側には、マンガや小説などをきっかけにでもいいから、スポーツに興味を持ってほしいという思惑がある。日英いずれにおいてもスポーツ産業は成長しているし、大学で体育・スポーツを学ぶ学生の数も増加傾向にある。出版・読書推進側がその勢いを借りない手はない。
日本ではすでに、セレッソ大阪と大阪市立図書館がコラボして、読書とスポーツを推進する企画展などを行っている。スポーツとマンガを絡めた出版社発の企画についても、スポーツ庁が食い気味で、「一緒にやらせてほしいとオファーしてきた」という話を、筆者はある出版関係者から聞いている。
「教育」「文化」以外の業界にも、書店や図書館、マンガや小説の価値を感じてリソースを投じてくれる事業者や団体、個人は探せばもっといるはずだ。

