日本でも2020年頃から、書籍の「TikTok売れ」が報道されるようになった。欧米を中心に海外では、より大規模かつ広範にTikTokやInstagramを使った本の販促(BookTok、BOOKStagram)が行われ、20年代以降の書籍市場の維持・拡大の大きな要因のひとつとなっている。
こうした比較的新しいタイプのマーケティング手法への支援を行う国のひとつがカナダである。
カナダ連邦政府の文化遺産省が所管する「カナダ・ブックファンド(CBF)」は、2018~23年の5年間で、総額2億4800万カナダドルを超える助成金・拠出金を支出している。内訳は「出版支援」や「組織支援」に分かれているが、後者の支援対象には技術や専門能力の開発、マーケティングが含まれる。ここに、各出版社がノウハウを習得する機会を創出するための「書籍出版社向けのデジタルマーケティング研修プログラム」も挙げられている。
日本でも同様だが、たいてい(とくに小規模)の出版社は、「動画、画像を使った販促やCRMツール等を導入したほうがよさそうだということ自体はわかる。だが具体的に何をどうやったらいいのかがわからない。予算や人員がいくら必要なのかも見当がつかない」のが現状である。したがって、それを学ぶための研修費用を国が負担してくれるのは大いにメリットがある。
さらに州レベルでは、オンタリオ州の政府機関、オンタリオ・クリエイツが運営するブックファンド(国のものとは別)が、助成対象となるプロジェクトおよび活動に「著者のポッドキャスト、ビデオ、ウェブキャスト」を明記している。支援対象は、オンタリオ州に拠点を置くカナダ資本の独立系出版社である。ただし事業年数、出版点数、年間売上(最低2万カナダドル)など、特定の基準を満たす必要がある。
申請が受理されると、売上規模に応じて総予算の最大75%までが支給される。その恩恵は売上規模が小さいプロジェクトほど大きく、150万ドル超では15万ドル(10%)までとなっている。つまり連邦政府と州の助成を組み合わせてうまく使えば、前者からはノウハウ獲得のための補助金が、後者からは獲得したノウハウを使って新たなリーチ手法に取り組むための助成が得られる、という建て付けになっている。
カナダの場合、欧米の大手出版社が刊行する英語の書籍に市場がかなりの程度食われている。デジタルマーケティングにおいても、国が自国の出版社をバックアップして対抗しないと、やられっぱなしになってしまうという強烈な危機感がある。
日本の出版業界は欧米のBIG5と比べ、BookTokの活用にせよその他のデジタルマーケティングにせよ非常に遅れている。しかもその自覚があまりない(この点については、12月刊の拙著『この時代に本を売るにはどうすればいいのか』(星海社新書)でも詳しく述べた)。「業界全体としてそれに取り組むべき」だという機運が高まっていないことが、その大きな要因であり課題である。
国や自治体による支援も早急に望まれるが、それよりもまずは、業界団体等が出版業界向けにアレンジした動画マーケティング、デジタルマーケティングの研修プログラムを用意し、ノウハウを広く周知、共有できるようにしていくのが先だろう。

