1998年に米・シアトル公共図書館のワシントン・センター・フォー・ザ・ブックで行われた「もしシアトル市民全員が同じ本を読んだら」というプログラムでは、司書が選んだ1冊の本をある期間中に市民に読むように呼びかけ、その後、著者を招いて感想などを語り合う機会が設けられた。
これが原型となって「One City One Book」というかたちのプログラムが、世界各地で行われるようになった。
「One City One Book」プログラムの主催者の多くは、各地域の公共図書館だ。そこに地元の書店やメディア、NPO、ボランティア、行政の他の部署などが絡むこともよくある。
本のセレクトは、司書や書店主、選書委員会、市民による投票やアンケートで決められる。その際には本の入手しやすさ、語り合いやすい内容かどうか、読者対象の幅広さなどが考慮される。運営資金の出所は、政府機関や公的な助成金、財団や図書館支援団体、企業のスポンサーシップ・協賛金、地域の民間グループなど様ざまだ。
日本でもこの試みは行われている。たとえば2010(平成22)年の「国民読書年」にちなんで始まった、大阪市の「One Book One OSAKA」。事務局は当初、大阪市立図書館内に置かれ(のちにボランティアを中心とした実行委員会主催となり、同図書館は共催または後援に移行)、経費はこの事業を支援する企業・団体等からの協賛金で賄われているようだ。
子ども~大人に「お気に入りの絵本」を投票してもらい、その結果を参考に市民ボランティアを中心とした実行委員会が決定する。
この「One Book」は、基本的には「読書推進」を目的に行われるケースが大半だが、書店や出版社にとっても非常に意味のあるプログラムだといえる。
地元の書店からすれば、その期間はコンスタントに、特定の本の売上げが見込めるようになる。自社で刊行した本が選ばれた出版社にとっても同様だ。何かきっかけがないと既刊がなかなか動きにくいこの時代には、再販売の貴重な機会となるだろう。
また知名度の高い著者が自分たちの住む町に来てくれるなら、書店も図書館も諸手を挙げて歓迎するはずだ。その1冊を、地元の作家の著書や地域にゆかりのある本のなかから選ぶのであれば、関連する場所へのツアーなども企画として考えられる。
小書店や図書館にとっては、何かイベントをやるにしても、人手や予算が足りないことは少なくない。しかしそれを地域全体の催し事としてできるなら、書店以外の様ざまな人たちが、読書会の開催などに積極的に動いてくれることは十分に考えられる。
そして周知がうまくいけば、「あれ、もう読んだ?」といった会話が人々の日常生活に溶け込んで、ふだんあまり本を読まない人も、書店や図書館に足を運ぶきっかけになるだろう。
ただしこれを成功させるには、実施にあたっての「告知の徹底」が重要ポイントだ。まず口火を切って広めていく人たちをあらかじめ確保・準備しておかないと、地域内での認知度はなかなか上がりにくい。
そういった運用上の難しさもあるが、うまくいけば「みんなでひとつの本を読んで話題にする」ことは間違いなく楽しく、地域の人々の絆をより深めてくれる。

