第57回 夏の魔法

8月中旬は夏に読みたい本の書評を書いていた。夏、夏、夏……。夏って他の季節より特別な感じがする。暑い日の空気や蝉の声、甘いスイカの味、夜空に咲く花火の光。五感を刺激するものが多いからだけではなく、五感を通して記憶に残る「体験」が多いからなのか。夏には特別な時間が多い。

「ドドンガドン カッカ」

お腹に響く和太鼓の音。先日、近所で夏祭りをやっていた。役所の広場を解放しての、小規模なもの。小さな櫓の周りを子どもからご年輩の方まで、輪になって踊っている。とにかく、踊ることがメインのようで、躊躇なく、誰もが踊ることに集中している。しばし、夫とその光景を鑑賞。曲が切り替わる。アップテンポなリズム。ニュースでも取り上げられていた、数年前から流行っている盆踊り。荻野目洋子の「ダンシング・ヒーロー」だ。ああ、これなのかと、興味深く見守る。心なしか、ボルテージがどんどん上がっている気がする。みんな、楽しそう。本当に楽しそう……。

でも、私の知っているお祭りって、こんなだったかな。ふと、不安になる。夏らしい音に惹かれて立ち寄ってみたものの、そっとその場を離れた。

ちょっと不穏な真っ青な表紙。『おまつりって、こわい?』(世界文化社、樋勝朋巳作)はなかなか衝撃的なタイトル。題字も普通のゴシックかと思いきや、よく見るとちょっと違って、なんだかゾワッとする。憧れのお祭りに行ってみたいけれど、勇気が出ないうさぎちゃん。そこへ、かっぱちゃんが現れ、半ば強引に連行される。

「ドドンガドン カッカ」

初めてのお祭りは、大きな音と人の波に圧倒され、まるで異世界。怖くて涙をこぼすうさぎちゃんだけれど、かっぱちゃんからもらったお皿を手に、少しずつ前へ。強烈なキャラクターとの衝撃の出会いも乗り越えていく。みんなには楽しい場所でも、うさぎちゃんにとっては未知の体験。勇気を振り絞って一歩踏み出す姿と、コミカルな出来事とのギャップがたまらない一冊。

ああ、わかる……わかるよ。今ならわかる、うさぎちゃん。私も、お祭りがこわい。本当に、特別な体験だった。今まで知らなかった、新しい感覚に出会えたよ。さすが夏。特別な季節。でも、悔やまれるのは、うさぎちゃんのように一歩踏み出せなかったこと。無念。来年は、頑張れるかな。私、やれるかな。勇気を出して、あの熱気の中で「ダンシング・ヒーロー」踊り狂えるかな。私に、夏の魔法はかかるのだろうか。

というわけで『おまつりって、こわい?』、激推しです。

(本紙「新文化」2026年9月3日号掲載)

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