第138回 最低賃金上昇と書店経営

岩手県の最低賃金は、2019年の790円から1090円へ。とうとう300円近く上がるところまで来た。上昇率にすれば37.9%になる。数字にしてしまえばそれだけのことなのだろう。けれど、岩手・一関市の書店「北上書房」の役員として、経営の側でその数字を受け止める感覚は、もう上がったで済む話ではなくなっている。

とくにここ1、2年の上がり方は急すぎた。収支の数字を追うたびに、避けようのない圧力として経営にのしかかってくる。販管費で削れるところも、もうほとんど残っていない。残っているのは、削れば店そのものの形が崩れていく部分ばかりだ。

正直に言えば、もう限界なのだと思う。努力や工夫でどうにかなる範囲は、たぶんもう越えてしまった。続けたい気持ちはあるが、続けたいという気持ちと、続けられるという現実は、ずいぶん前から別のものになってしまっている。うちもまた、静かに終わりへ近づいている一軒なのかもしれない。

遠く離れた会議室では、書店正味30%確保を、と数十年前から言われてきた。その言葉は正しいのだろうと思う。ただ、正論が正論として語られているあいだにも、こちらは日々の数字のなかで、もう持たないかもしれないという感覚を深くしてきた。会議室と経営のあいだには、埋めがたい温度差がある。いま残っているのは希望よりも、もう間に合わないのではないかという諦めだ。

それでも、僕が諦めたら終わる。ただ、その当たり前のことを支える力さえ、もうあまり残っていない。

(本紙「新文化」2026年9月17日号掲載)

著者プロフィールはこちら