第13回 イタリア・韓国・フランス/家賃値上げ→書店撤退どう防ぐ? 支援成功例はパリ市の政策

近年、書店が店舗の賃貸契約を更新できずに撤退・閉店する事例が相次いでいる。借地借家法上は借主の方が強いはずなのだが、ビルの建替えや老朽化など、法律上認められている「正当事由」の場合以外にも、貸主側から立退きを要求されたり、家賃値上げ要請により、更新が不発となることも少なくない。

同様の問題は日本以外の国でもある。そしてそれに対して、国や自治体レベルでの支援政策が行われている。

そのなかでも、手厚い補助をしている国がイタリアだ。イタリアのTax Credit Librerie(書店税額控除)は、都市より地方・過疎地、大書店より小書店に傾斜して支援する建付けになっている。

予算は2024年度から半減されてしまったが、それでも、(1)地域にその1店しかない場合は優遇する、(2)売上げが小さな店ほど、支払った家賃や地方税に応じて別の税金(国税や社会保険料)控除の比率を大きくする規定を設ける、など、無書店の自治体の増加を抑止する意図が鮮明だ。

それらは直接的に家賃を補助する制度ではないものの、支払った家賃分(上限は年間で最大8000ユーロ=約136万円)だけ、国税や社会保険料がチャラになるので、トータルでの支出は減ることになる。

ただしこれは、家主側に何らかの規制をかけるというものではない。また赤字事業者はそもそも税金の支払いがほぼないうえ、地方と比べると都市部ではあまり機能していないなどの限界がある。

一方、世界各国には、書店をはじめとする小規模事業者保護のため、借主側が有利になるよう賃貸契約に制限をかける法律・条例も存在する。

例えば韓国の「商街建物貸借保護法」は、最長10年の契約更新を要求する権利を借主に付与し、貸主には家賃の値上げ率を上限5%までに設定している。

ただ大抵の国では、法律に違反した貸主に対する不服申立ての手続きが煩雑だ。また貸主側にも「管理料」といった別の名目によって実質的に値上げする、などの抜け道がある。さらに近年、国の手当が追いつかないくらい急激な不動産価格の高騰が起きている。その結果、そうした施策があまり機能していない状況もある。

そんななかで数少ない成功例と見られるのが、パリ市のVital Quartier(ビタル・カルティエ)計画だ。これは市が半官半民の会社に原資を貸し付け、そこが売りに出された商業物件や空き店舗を買い取り、市場価格より大幅に安い家賃で書店やパン屋などの小規模事業者に貸し出すという政策である。

これによって独立系書店や出版社などが約30の賃貸契約を結び、結果、パリの書店の減少ペースは年率マイナス2%にまで抑制された。ただしこの政策には、これまでに約130億円もの予算が投じられており、財政規模が小さい都市では到底、真似ができない。

世界を見渡しても今のところ、「日本もこれをやりさえすればいい」というほどの政策は見当たらない。そもそも日本では、これらの政策を参考にしようとする動きに乏しいばかりか、政治家サイドに「書店の賃貸契約の延長不発が相次いでいる」実情すら、十分伝わっていないと思われる。

今こそ政界と不動産業界に、書店の価値を伝えるためのロジックと運動が必要だ。

(本紙「新文化」2026年9月3日号掲載)