日本の出版産業史において、「本の輸配送コストを誰がいくら負担するのか?」という問題は、たびたび摩擦と交渉の焦点となってきた。そして今また、それが大きな争点となっている。
日本以外の国ではどうなのか。出版社や卸、書店の負担緩和、あるいは競争力強化のため、本の物流費への助成が充実している国の例はあるのだろうか。
直接的な支援をしているケースは少ないが、例えば韓国出版文化産業振興院(KPIPA)では、運賃負担まで広くカバーしている。
韓国は、1940年代前半には日配が一社で一元的な流通網を敷いていたが、独立を回復してからは、日本の大手取次のような存在は登場しなかった。現在は版元と書店が直接取引しているほか、ジャンルや地域別に出版卸売(「総販」)や、書店同士での仲間卸、仲卸による流通網が無数に張り巡らされている。
問題は、巨大物流センターを有するYES24のような大手オンライン書店は、注文を受けたら即日配送できる体制を築いている一方で、地方の中小書店は注文から着荷までに日数がかかる点だ。
またソウルとその近郊では、物流費用を出版社や卸会社が負担しているが、地方では仕入れ費用を書店が一部負担している。さらにソウルへの一極集中が加速しており、多くの地方が衰退の危機に瀕するなかで、商売自体を続けていく難しさも生じている。
こうした背景もあってKPIPAの出版物流支援事業は、大義名分を「『地域(の文化拠点である書店)』」を守るため」としている。
また政府と韓国書店組合連合会が推進する「地域書店共同受配送運営事業」では、ソウルに集中する出版社から地域の各書店に個別配送しているムダを減らすため、まずは各地域の拠点センターに大型トラックで幹線輸送し、その後、共同配送車両を使って地域内の書店に本を届けるとしている。
これは日本の取次が築き上げてきた手法と同型であるため、共同配送構想自体は日本にとって参考にはならない。ただし、共同配送を実現するために必要なマテハン(マテリアル・ハンドリング)やPOSのようなシステム導入のための初期投資のみならず、物流に関わる運賃、人件費、物流拠点の賃借料など、日々の輸配送にかかる費用も、3年間の期限付きとはいえ助成の対象となっている点は注目に値する。
それに比べて日本の「書店振興プロジェクト」では、ランニングコストへの支援はきわめて手薄だからである。
そしてもうひとつ重要なのは、こういう支援は当事者の意向にかかわらず「政府が勝手にやってくれた」わけではない、という点である。それらは出版団体、書店団体が長年、国に積極的に働きかけることによって実現したものだ。
日本では近年、取次は各省庁や政治家に積極的にロビイングするようになってきた。一方で出版社や書店による国政、地方議会などへの働きかけは、他の産業と比べるとまだまだ活発とはいえない。 例えばスポーツ産業と比べても「議員を擁立し議会に送り込む」といった戦略を立てることもなく、具体的な動きを欠いていると言わざるを得ない。
業界人は「政府が何かやってくれるか」「何をやってくれているのか」を期待するだけでなく、自らが「政府にどう働きかけていくのか」を他国の例から学び行動する必要がある。

