本コラムでは前回、韓国の話を紹介したが、今回も続けて取り上げてみたい。というのも、この7月に同国の文化体育観光部と行政安全部が示した「図書館納本に関する改善案」が、日本で日書連が求めている内容とよく似ており、参考になる事例だと思ったからだ。
韓国ではかねて「公共・学校図書館の図書調達は地元から」という運動が起こっていたが、今回、随意契約の金額制限の撤廃や、装備費用別途請求などが国政レベルで実現する見込みである。
日本でも地方自治法で、「随契の金額は原則些少でなければならない」と定められていることから、図書館納本事業者の選定について「地元書店や地場の図書納入組合に、指名で発注するのは許されない」と解釈する自治体が少なくない。韓国ではこの規制を緩和し、さらに自治体が競争入札を実施した場合の適格審査(信用度評価)においても、地域書店や書店組合に明確に加点(優遇)するといった支援策が講じられる。
その根拠となるのが、2007年から同国に存在する「出版文化産業振興法」である。これは国および地方自治体に対し、地域書店を活性化する政策・支援を行うことを法的に義務づけるものだ。
同法を背景に、韓国書店組合連合会は、自治体レベルでの具体的な政策(予算取りや自分たちに有利なルールづくり)に結びつけるため、「地域書店活性化条例」の制定に向けて、全国の地方議会、地方議員に積極的に働きかけた。その結果、これまでにすべての広域自治体および4割近い基礎自治体で、条例の制定が実現している。
民主化運動がさかんだった頃から、韓国では言論人である出版社の創業者などが政界に進出する例は珍しくなかった。また現在でも出版社・書店団体は、政策実現のためにデモその他の直接行動をとることを辞さない。日本と比べて、これらの団体と政治との距離感がもともと近かったといえる。
ただ、日本が参考にできる点はほかにもある。韓国の出版業界・書店団体が大規模な運動を展開するときには、例えばハン・ガンのような著名作家を前面に立てて行う。名のある作家らに協力を仰ぐのは、世論や政治家を動かすうえで有効であるからだ。
また、前大統領、尹錫悦(ユン・ソンニョル)の時代に、出版・読書関連予算(助成金)が大幅削減された際には、韓国出版人会議などの業界団体が、これに反対するキャンペーンを組織的に展開した。SNSなどを通じて、「政府が『本を読むな』と先頭に立っている」「読書生態系が崩れる」などと訴えたのだ。
こういったソーシャルメディアを駆使したアピールや世論喚起は、日本の出版産業、書店団体が苦手とするところで、まったく手薄というしかない。世論の風向きが出版業界や書店の応援に向いていればこそ、国民の支持や関心を気にする国会議員、地方の政治家らが出版・書店の支援に回るというインセンティブが発生するのだが--。
残念ながら、出版・取次・書店業界のトップが密室で与党に働きかけるだけでは世論は味方してくれない。国会議員や地方議員・首長を、具体的な予算取りや法律・条例の制定に向けて動かすには、世の中レベルの風が吹かなければならない。国政・地方政界・世論・作家ら各方面に積極的に訴え働きかけていってようやく歯車は回るということを、隣国の事例はよく示している。

