第20回 本をすすめる仕事

 岩手県の奥州市立胆沢図書館が、とても手の込んだ新井賞の展開をしてくれている。しかし写真をよく見ると、肝心の本『ライオンのおやつ』(ポプラ社)が1冊しかない。書店でこれだけの展開をするなら、積み上げる必要があるだろう。だが、そこは図書館。本を売ることを目的としない場所なのだった。
 それにしても、こんなにそそる展開をしたら、あっという間に「貸出中」になってしまうだろう。隣に座っていた花田さん(店長・花田菜々子)に、雑談を持ちかけた。「ねぇねぇ、我々は積み上げた本が減っていくのが嬉しいけど、図書館の人は一体何が嬉しいのだろうね」そのモチベーションは、すすめた本の予約がぐんぐん増えていくことだろうか。
 花田さんは、要約すると「何もしないよりいいじゃないか」というようなことを言った。それはまさに彼女の私小説『出会い系サイトで70人と実際に会って本をすすめまくった1年間のこと』(河出書房新社)に書いてあった言葉だ。決して、マイナスの意味ではない。それが何になる、という結果は後から付いてくる。私の新井賞だって「何もしないよりいいじゃないか」から始まった。そして楽しかった。聞くまでもない、愚問であったな。

(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

(本紙「新文化」2020年2月27日号掲載)